むかしむかしの角川文庫、
赤帯は文学。
「そばかすの少年」…ジーン・ポーター作、村岡花子訳。
本棚のなかでとくべつに場所をもっている紙表紙の文庫本はみんなみんな、
いつかひっそりと母から引き継いだ。
カヴァーだったゼラチン紙はぱりぱりになってだめになったけれど
思い切って、それをいちまい捨て去ったら
薄いミルクティ色の、全然いたみのない表紙だったこと。
ちいさく感激した、活字時代の知恵とかあたたかさとか。
旧漢字のまじりかけた文章をたべてあたしが育った。
続編のような「リンバロストの乙女」があったときは、びっくりしてそうしてうれしかった。
別の本で引用されているのを十のときに読んで、以来
ひっそり憧れていたのに、当時は絶版だったから…
いまはどうなのだろ。
いちど再版、された気がするのだけども。
昭和三十九年三月三十日 初版発行 定価百四拾円……
日焼けと埃で変色して、今より圧倒的に小さな字で組まれた
「古き・よき・少女小説」どものしずかな呼吸。
くりかえしくりかえしあたしはたべて
飽きるなんて知らず、また帰る…今晩も、また、また、また。
きっと、宝物。
そして、友達。