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「うつせみ」

■ 2007/09/08 Sat 3:24 「うつせみ」

この映画をみてどれだけのひとがそう感じたかはわからないけれど
わたしは、とても幸福だった。
つめたくもあたたかくもなるブルートーン、
主人公のふたりのせりふは極端にすくない……というより、ないにひとしく
それでも、見つめているだけすこしずつ
彼らの生きている方法は
わたしのあたまのなかに映しこまれ、ゆっくりと溶けて
いつか、たぶん、
おなじ速さで呼吸をしている。

ただ、あいのことばだけが
ふわり、と口にのぼって
受けとめられたのがみえた。

たくさんたくさんの言葉を口に乗せ伝え電話を通し
怒りも愛撫も威嚇も、なんでもできる人々が
周囲をとりまいている、さまざまな感情、
けれどそのなかでもっともしずかないたわりでさえ
もっとも激しい号泣でさえ
ただ、ならんで座ったときのふたりの姿よりも
あたたかくて、そして今にもこわれやすそうにもろくて
危険にみちた、雄弁なものはひとつもなく。

雑音に満ちみちたせかいからぽっかりと
うきくさのように、ふたりのひとがうかびあがる。
淡くやわらかい頬と、無骨でひたむきな目。
せかいから消える瀬戸際のように生きている
その、ふしぎな生きのび方の方法。

それがもし、まぼろしだとしても。

壊れたCDプレーヤーを直す、その手のもちぬしを。
見知らぬ老人の遺体を清める、その手のもちぬしを。

おたがいによって、抱えられた頭を髪をなぜる手、
着られた髪のひとふさ、選ばれたやさしい色の服。
世の言葉でどう呼ばれても
それは、幸福ということ以外にはないのだと
ほほえみの余韻がのこる部屋で
わたしはぼんやりとかんがえる。

せなか側には、だれもいない。



data :
「うつせみ」キム・ギドク脚本監督、2004年、韓国・日本、88分
原題 : 「3-IRON」
私たちは永遠に、よりそう。
イ・スンヨン、ジェヒ
□第61回ヴェネチア国際映画祭 監督賞ほか全4部門受賞
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by stelaro | 2007-09-08 03:24 | コトノハ:cinema