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スティルライフ, I follow the sun

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「みすゞ」

■ 2006/02/12 Mon 「みすゞ」

もし
書くことのできることばのなにひとつが
このせかいから見えなくなってしまったら
この目にうつらなくなったなら
私はそれでも以前とおなじに
いきるということを、享受していけるでしょうか

笑いながら
眼にうつるのは
たりないばかりのわたくしと追いつけないせかいと
つかれはてた、たったひとつのことばが
うちしおれていて、それでも、

風景は世界はこの手のなかで色褪せることを
すくなくともわたしは知っている
流れてこぼれる水がただひからびるのも
かがやいてひかっていたみどりがいつのまにか
薄暗さのなかにひたるのも。

風が腕のなかを通り抜けていくときの感じ
色とにおいと手触りと、音、ことば、囁き
それがうすれてなくなったあとの
かなしいまでの、ひとりぼっち、ひとりぼっち、

前とおなじに居られるか
そんな夢なら醒めないがよくて
けれども
せかいは色褪せていないのに
わたしのことばはちびた鉛筆。
もう、芯までけずられて
痛いと呟くばかりなら、もしもずっとずっとそれが
つづいてやまないのなら

「あすからなにを書きましょう」

それはとてつもなく狂おしい場所であるように思え
わたしはそうっと、このひとの行為を
ゆるすしかないように、思いました。
さざなみみたいに沖へ沖へ
死というなまえの沖へ
ひきよせられてゆき、もう二度ともどらないこと。
青い海、青い腕。

陰影ということの、とてもうつくしい物語にて
はじめはそれをわたしは、白と黒だと思ったけれど
ほんとうは違い
ひかりと陰だった。
とてもとてもなじんでしまう、境目のない
ふたつの存在だった。

追記。
田中美里の演技は妖しいくらいではっとする。
童女のように人形のように狂女のように
生活に疲れ果てた女のように
つぎつぎとうつりかわってゆくその瞳と風情がなくてはきっと
この映画には、芯はたたなかったような気がする。



data :
「みすゞ」五十嵐匠監督、2001年、日本、105分
26歳で夭折した幻の天才童謡詩人、金子みすゞ、その儚くも鮮烈な一生涯。
田中美里、中村嘉葎雄、永島暎子、寺島進、加瀬亮
by stelaro | 2006-02-12 02:32 | コトノハ:cinema