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スティルライフ, I follow the sun

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「みなさん、さようなら」

■ 2005/10/29 Sat 「みなさん、さようなら」

本当はそうではないはずなのに自分は空虚であるとか
誰ひとり自分には持つものがないと
芯からそう思いかけたときに
ふと、手にとってのぞいてみるといいかもしれないと
そう思った。

湖畔でくりひろげられる、ふつうで言えばありえないままごとのような
それぞれすっぽりとブランケットにくるまったひとたちの
とてもあたたかい
でも、「死への旅路」のための、時間。

1950年はバカのあたり年だよと仲間達とジョークを飛ばし
ワインと女とたくさんの議論とに「うつつをぬかして」この世に
さようなら、を告げようとしていた彼。息子と折り合いが悪かった彼。
しょっちゅう女友達を家に引き入れるから、妻とは絶縁状態で
それもやはりジョークで笑い飛ばしてしまう彼。
傍からみれば失敗の人生、
しかし
なぜかしら、それでいいのさと両手を広げて笑えるだろう
彼と、彼の周囲と、そうしてだんだん集まってくる、、、家族達。

彼は、書物はなにも残さなかったし
墓碑に刻む文章だってきっと
ほかのたくさんの愛された人たちの間にまぎれる程度のものだろう。
だけど彼は少なくともひとりの少女を生きさせるために死んだような気がする。
その、ぜんぶのいのちをつかって、最後に出会ったひとりの少女に
こわれかけ、孤独だと信じていた少女に
自分のこころのなかのあたたかいものを託して
託したことを見届けて。

みなさん、さようなら。

ひとりで言われるそれはすごくさびしいせりふに聞こえるけれど
寝転がってエンドロールをながめながら
ああ、あたたかい
と、わたしは思っていた。

湖畔の車椅子で、タータンチェックのブランケットにすっぽりとくるまって
こちらをふりかえってゆっくり笑いながら、手をふっている。

「さようなら」



data :
「みなさん、さようなら」ドゥニ・アルカン脚本監督、2003年、カナダ・フランス、99分
原題 : Les Invasions Barbares
レミ・ジラール、ステファン・ルソー、マリ=ジョゼ・クローズ
ドロテ・ベリマン、ピエール・キュルジ
2004年ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート
2003年カンヌ国際映画祭・最優秀脚本賞、最優秀主演女優賞受賞
2003年ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀外国映画賞受賞
2003年トロント国際映画祭最優秀カナダ映画賞受賞
2003年ヨーロピアン・フィルム・アワード最優秀インターナショナル映画賞受賞
2003年サンディエゴ映画批評家協会賞外国映画賞受賞
2003年トロント映画批評家協会賞最優秀脚本賞受賞
by stelaro | 2005-10-29 16:26 | コトノハ:cinema