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アマポーラ

■ 2005/06/01 Wed 19:02 「アマポーラ」

アマポーラという名前を知ったのは
実はなんとなく立ち読みしたまま買ってしまった
マンガ文庫のなかの1シーンなのだったけれど
ロルカの詩の一節ではじまるそのストーリーのなか
主人公がちいさいころ両親と三人スペインにゆき
「真っ赤なアマポーラを摘んだ」
という……それだけのせりふが
わたしにはすごくすごく焼きついてしまって離れなかった。
アマポーラ、
それはどんな花。

なにしろ白黒ペン画の文庫本サイズのなかの野原のできごと、
花のかたちなんてわかりはしない。もちろん色も。
そうしてわたしが唯一たずねたスペインという国はそのとき2月で
まっさらな大地はひどく広くそうして赤くて
半日のあいだ、走っても走っても終わらない岩山や丘陵やそんなものは
ほんとうに大きすぎて空を見て笑ってしまうくらいにあったけれど
夏になればいちめんに広がるという向日葵畑やみどりの存在を
そこに重ねて思い浮かべるのは、私にはちょっとできなかったことだった。
突き抜けて空色の、アズーロの色のそら、
そうして乾いた大地、
はりつめてつめたかった温度と灰色の石と陽気な人たちと、、、

そんなスペインに
広がっていたらしい
アマポーラ、そんな名前の
赤い花。

このあいだのおやすみの日、すこし遠い近所にある大きな川の河川敷で
市が管理している花畑のポピーが満開であるというので
ふらりふらりとそれを探しに行ってみた
その日から花摘みができることになった河川敷は
あかるい黄色やあたたかなオレンジや
それから透けるような赤い色の無数がひっきりなしに揺れていて
たぶんわたしには抱えきれないくらいのたくさんの花を
抱えて花の中をあるいているひとたちでいっぱいだった。
はさみを片手に持ち帰る株をさがしながら
あるいは、新聞紙でくるんだ
みんな笑顔で。

なんとなく別のところで書いている日記でそのことを書いて
ふと、さいごにタイトルを付けようとしたときぼくは
赤い花、と思い浮かび書きつけ
そうしてそれをまた消して
打ち込んだ

アマポーラ。

どんな花か知らないけれどその日にみた日のひかりに透きとおる赤、が
なにか思い浮かべていたあのスペインの陽光とかさなるような気持ちがして
嘘でもいいから、そうだこのイメージはきっと、アマポーラだから。

はさみも新聞紙もなかったぼくは
昔のことを思い出しながら目の前にひらいている
赤とか紅がかった白なんかの花を
ほんの少し手折ってみて
草の汁で手と服を汚した。きっと落ちない草の色のしみ、
たぶん、うっすらと消えかかりながら今日の日の記憶になる。

枕もとのビーカーで今
折り採ってきたその花はひらたく赤をひろげている
ひとえに、八重に、
重なりあう赤がまぶしいみたいにまるくまるく花を
ふんだんに、空気にさらして。

この色は、なんて言えばいいのだろう
花のような、紙のような
はかなくてうすくて、その乾きかたは触れるとなんだかせつなくて
でも鮮やかで鮮やかでしかたない、決して鮮血のようなどでなくて
もっとただしく、すこやかに朗らかな赤色のひろがり。

たとえば、ちいさいころに投げあげて遊んだ
紙風船のあのかさかさとした張りや空気の含みや
そめわけられた彩りのあっけらかんとした表情に
通じているみたいな、そんなふうな。

ふと思いついてパソコンを立ち上げ検索サイトの空欄に
アマポーラ、と打ち込んでクリック一つを押したら
その先には「和名ポピー」という、そんな解答が用意されていて
少しだけ笑ってしまった。アマポーラ、和名ポピー、
あの河川敷にひろがっていた赤や黄色や橙の点々。

まぎれもない、
そう、

ぼくの枕もとには今、スペインの赤い花が咲いている。

アマポーラ_b0048645_2101887.jpg



今日の本:
白のファルーカ」槙村さとる、集英社[コミック文庫]、1998年
by stelaro | 2005-06-01 19:02 | 点景、スロウデイズ、紅茶時間