人気ブログランキング | 話題のタグを見る

スティルライフ, I follow the sun

nodakruco.exblog.jp
ブログトップ

ps.あらゆる意味で過剰ではないということ

■ 2005/02/07 Mon 16:44 「ps.あらゆる意味で過剰ではないということ」

ps.テーマ、自傷と反応

スティーブン・レベンクロンという著者の本を何年か前にぐうぜん見つけてより、こちら
とりあえず目についたものはすべて読むことにしている……と言っても四冊目だけれど
(と言ってもたぶん日本で発売されているもののぜんぶ?)
この人の書くものは、とてもよい
ほとんど小説なんだけれど小説家ではないです、現役の心理療法家
以前に読んだもののテーマは摂食障害(文中では翻訳と年代の都合上か
べつの名前なのだけれどとりあえず今は日本語で)、あと自傷
治療のしかたなど、アメリカならでは?と思えるところがたまにあるにしろ
お話じたいがとても吸収しやすかったから、いいなと思った
たぶん30年からのキャリアがあるようなひとなので
きっと、いろんな意味で、在るものを表現することに慣れているのだと思う
あるいは、伝えることに

臨床家なんてことばの専門家だと思っているから
ストレートにつかうことのできる武器はきっと言葉なので
しぜん、ものすごくみがきがかかっちゃってどうしようもない、ほんとうにどうしようもない
今までいくらかのセラピストに出会ってきたが
どうしようもなく胡散臭い方向にいっている人もいれば
なんだかおもしろくなっちゃっている人もいれば
奇妙にねじけてみたり、ひじょうに愛すべき人格だったり
へんに構えてかかるのがばかばかしく思えるような、まあるい人もいたし

人間ができあがっている人はひとりもいないが(たいていがどこかほころびている)
そのバランスのうしない方が、むしろ安心できるものであることが多いみたいに、見える
そういう、傷の内包のしかたをしている

この本も、なんとなくそういう印象がする
きちんとあらゆることが包み込まれている感じ、意図するところがシンプル
過剰でないところが気持ちいい
いろいろなメディアを通してやってくる情報はめちゃくちゃに色づけされていて
その過剰さに慣らされつつも、かなりくたびれている身としては
こうやってシンプルに扱ってもらえると逆に楽かなって
慣れていない人がよむとどういうふうに捉えられるのかは、よくわからないけれど

半分専門書の体をなしているので
基礎知識がない場合読みこなせるかわからないのですが
すくなくとも前半はかなりわかりやすいと思う
ねじくれてしまった心をきちんとほぐして
それぞれにぴったりとあてはまる表現であらわしている
かなり、とても、
現実に即している文章なのではないかと思う

現実に即すということ
自傷、という行為をめぐってはこれはとても大事なんだと思う
行為自体がものすごくセンセーショナルでしょう
血が流れる行為はどんなかたちでもショッキングなのはあたりまえで
でもこの場合大事なのは……ほんとうは
血液の流れる量じゃないし傷の大きさでもないとぼくは思う
簡単に言ってその行為だけをクローズアップしてことさらに語られるのが嫌いなのだ
そこでの語り口は、多かれすくなかれ
とても過剰でヒステリックだから
不安や不快感を煽るだけに終わってしまったら
啓発という以上に、悪いことをあんまり生み出しすぎるから

隣にいる人の自傷行為よりメディアで語られる自傷行為のほうが身近なのは、
幸福です、ぼくはそうありたいです
でもいっしょにこわいです、とてもこわくておそろしい
自傷行為なんて文献をあさらないといけなかったようなものが
今ではネットの世界にごろごろころがっているからもっとこわい
メンタル系というひとつのジャンル形成をしているくらいそれはありふれている
ていねいに傷の画像つきであったり、毎日つづられる日記だったり
身近にいるよりもそのひとを理解できてしまったと錯覚してしまうような
ひどく赤裸々にみえることばが散乱していたりするけれど

あらゆる事情を、ネット、という場所を利用して
赤裸々に語っているように見えていても
結局のところそれがリアルではないと思うのです
そこには肉体はないので
隠すべきほんとうのからだも
なにより実際に暮らしぬいていくべきそれぞれの日常、がそこにはなくて
ごはんを食べたり眠ったり誰かと話したりけんかをしたりテレビをみたり
それから笑うこともあるだろうし泣くことも怒ることも夢をみることもある
そういった24時間分の雑多なことがらのなかから
彼彼女が選択したいくらかのことが載せられ放たれている
「だけ」なんだということを忘れたらいけないと、思う

ひとつの傷、そのうしろにひろがっているものは
本当に本当にふかくて遠いなにかなんだと、いつもいつも、思う
ただ行為だけみて叫ばれることのないように
見るものにもまたたくさんの感情を巻き起こすものだから
叶えるのも実行するのも難しくてしかたないけど
過剰であることはできるだけ止めたい
ただ、そとからこの世界を覗いて、とんでもないおそろしい頭がおかしい、と
言い叫んでいたり、あるいは完全に無視するのは
いちばんありがちでかんたんな反応であったと思う
そしてそれはいちばん楽な道でも、あると思う

傷つけたし
傷つけているし
めちゃくちゃだし
関わったらむしろ噛みつかれるかもしれない

でもいっしょに生きたいとねがっているひと
その隣にいるひと

真剣でなくちゃいられないひと

そういうひとについての描き方として
今回手にしたこの本はとても良かったと思います
ある行為に追いつめられていく人の機構、、、、みたいなものを
傷に流されず、過剰にショッキングではない言葉できちんと描き出していて
感心しました、あるいは、感激しました
このように理解されるならいつか救ってもらえるかもしれないという期待感みたいなもの

ただぼくがこう感じこう書いたからといってこの本を読むことを
誰にでも勧められるわけではありません
知ることが必要ない人、というのは確かにいるし
それから現実おなじ行為に悩んでいるひとに対してこそ慎重になります
むしろ、よいと言われたからといって手にとらないほうがいいです
自分の影響のされやすさとか、不安定さの状態とか、治療を受けているか否か、
いざというとき混乱をうけとめてくれるひとはいるかどうか
そういう細かな事情の上に、手にとるという選択はされるべきだと思う

これはぜんぶの臨床の本についていえることだし
いわんや、ネット検索というおそろしく便利でやっかいなものにも言えることだが
自分について知りたいと思うあまりに、やみくもに知識を求めないこともだいじだから
知識をひろくすることが必ずしもよいこととは限らないから
自分について、よいものとわるいものの見極めがうまくできなくなっている状態があなたなのなら
新しいところに突き進んでいくよりも、むしろ今あるものを
いっしょうけんめいにみつめた方がいいことも、時にはあるから



「CUTTING」スティーブン・レベンクロン、森川那智子訳、2005年、集英社
[副題]リストカットする少女たち
[原題]CUTTING -Understanding and Overcoming Self-Mutilation
[他]集英社文庫、2005年1月25日第一刷、619円、ISBN4087604799
by stelaro | 2005-02-07 16:44 | ps & p.s.