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「運動靴と赤い金魚」

■2005/01/03 Mon 「運動靴と赤い金魚」

お兄ちゃんがんばる。

小学校のころの、土曜日の放課後
四時間目が終わって外に出れば、そこはまだ昼のひなかで
まぶしくてあったかくて、門の近くにはふるい桜の木が立っていて
ランドセルをがたがたさせながら見上げたら空が青くて
気持ちの底のほうがなんとなくわくわくしていて回り道したり
うちに帰ったら、まだあかるい台所でごはんが焼きそばだったり
そういうことが訳もなくうれしくてしかたなかったこと

そういうことをすごくすごく体中で思い出して
胸がぎゅっとした

もちろんその裏側には同時進行で
一緒に帰る子がいなくて寂しくて悔しかったこととか
先生に思ったとおり話ができなくてみじめだったこととか
牛乳のコップを落としてものすごく叱られたこととか
更に更にささいな
みんなうちに帰るとお昼ごはんや誰かと遊ぶ予定が待ってるのに
自分にはなんにもなかったとか
そういう、真剣にかかえきれないことがぴったりと貼りついていて
等身大のぼくはつねに等身大のぶんだけ
そのわくわくすることと嫌なことの両方をめいっぱいやっていて

そういう子どものエキスみたいなものがたくさん詰まっていたと思う
些細でしかたない、とてもとても重大な悩み
自分の手では動かせないたくさんのこと
めちゃくちゃにまっすぐで真剣であること
子どもの時にじゃまでじゃまで仕方なくて
脱ぎ去ることに成功すると、二度と取り戻すことのできないもの
大人になると、うっかりなつかしんでしまいそうな
まだ比較的シンプルで、シンプルがために困難な、人生

ほんとに妹に笑ってほしかったんだなとか
お父さんにほめられて誇らしかったんだなとか
そういうことがきちんと伝わってくる瞳だった

きらきらした話
中庭の池でひらひらと泳ぐあかい金魚
そのなかで一匹だけ、しっぽに黒い点のある金魚
妹と一足の靴を洗いながらとばしたしゃぼんだま
お父さんと自転車に乗って出かけた先の街路樹
りぼんのついたピンクの靴
妹が笑ったこと

とても、とても

きらきらしていた



data :
「運動靴と赤い金魚」マジッド・マジディ監督、1997年、イラン、88分
ぼくは走る、あたたかい笑顔を届けるために
ミル=ファロク・ハシュミアン、バハレ・セッデキ、アミル・ナージ
1999年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
1997年モントリオール国際映画祭グランプリ、観客賞、全協会賞
1998年ニューポート映画祭最優秀外国映画賞
1998年シンガポール国際映画祭最優秀アジア映画賞

この感想は1月5日に書きました
この映画について付け加えることがあるとすれば、それは
イランの貧困層を舞台にした映画であるということと
主演の兄妹をやっているのは、「子役」ではなくて
監督が小学校を捜し歩いて見つけた演技経験のない男の子と女の子だということです
それから父親役も。
by stelaro | 2005-01-03 16:13 | コトノハ:cinema