「橙飴」
あめのなかに橙いろ
金木犀はいつも、そぼ降る水のなかで
ちひさな花をひらいてゆく
そう思う記憶の通り……今年もまた
会えたね。
ミリ単位にちいさくて、鈴なりのくせに葉蔭にかくれた
ほんの少しの厚みをもったやわらかな花と甘い匂いで
ぼくの足を止める……いたるところで
十月と秋と深まりのはじまりを
甘やかすぎるくらいの手で、ひろげていくから
くもりぞら、
てのひらに小さなあかるい橙を
少し少しずつ落としていく
はじめて好きになったひとの家にもこの花が咲いてた…そんなことを
ぼんやり思い出してはまた仕舞い
ぼくの小さい手に積もる傷つきやすい橙
こんもりと触れる秋のことばだ
部屋にひろげたら、次にドアをあければ
甘い匂いが香ったことを
あなたになんと伝えたら?
……。
ぼくの秋が、またひとつ、
すきとほった瓶のなかで、凍る仕度をしています
くもりぞらの日に
ひとりの庭で