スティルライフ, I follow the sun

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夜夢、まなこ

雨の底にいるのは、海の底にいるのとおなじだと
もうにどとはしらない夜汽車のなかで
そのひとはいった

一枚のみどりの葉をあかりにかざし
はしる葉脈をたんねんに
しらべながら

ぼくは、上着のポケットからいちまいの地図をだす
皺をひろげてゆけば、それは
かさついてふるびた大きな枯れ葉であって
見つけるべき別れ道も
湖をかこむ森も
なにひとつ、見出だせはしなかった
すみからすみまで、スクエアに
こまかな皺までをのばしながら指の先で
この欠けた紙片の奥そこをさぐってみる、けれど

たったひとりのいきものの声も
そこから聞こえてこない、まま

よい指をしているね、と
ぼくとぼくの指と膝のうえの枯れた地図をみながら
そのひとが言った
ものをつくる指ではない
ものを呼び起こす指だと
そのひとは言った

みどりの葉はきちんとかばんの上に置かれ
黒い上着に黒いぼたんがうっすらひかるなか
しずかなひとみで、彼がぼくをみている
いつからだろう
考えても、思い出せないくらいすべらかな
それはまなざしの移動だったから

誰のすがたも見えない夜汽車だ
いや、その指をもっているならば
きみにはきっと見えてくるだろうよ…そう言って
みどりの葉をかばんにしまう白い手つき。
このひとには、さんざめく
しずかなおおぜいの「ほかのひとびと」がみえるのか

耳にとどく寸断ない雨をききながら
黒い靴はやわらかく、その足をつつんでいた

ぼくは靴うらにこびりつき乾いた泥を
そっと、落とす
白いでこぼこの海岸戦から河へふみこみ
つめたく刃物じみた流れをわたったくたびれた靴は
ただ
今までのぼくが夢でなかったと
唯一の証拠をあらわしてくれているような
気が、した

かすかに点滅する天井のあかり
にどと走らない夜汽車が
雨にはこばれて、どこかへとゆく
しずかなしずかすぎるひとびとを、のせて

みどりの葉脈の道を
枯れた地図の折り目を
てがかりにしてすすむ、ただ、終わりの決められていない
ひどく、やすらかな旅だ

黒い靴、黒い上着、黒い外套、
そして
うすきいろなひかりにすける、行き先のよめない地図
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by stelaro | 2006-12-15 04:49 | コトノハ:呟