たくさんのフレーズをずっと抱えながら
生きておりましたし
そのことに疑問も持たずにおりました。
きみ、は
世界のどこを探してもいないことを納得してもおりました。
だからぼくの描くところの肖像画には顔がなく
恋をしても誰もの顔をすぐ忘れ
ただ一週間、七日間くらい
焼かれるような独りに堪えればたいていのことが
もとどおりに運ぶようになってしまうのです。
そのことをぼくは知っているから
たいていのことで躓きはしても
あっさりとかんたんに絶望はしても
叩きのめされたと感じることは
ほんとうは、なかったのでありました。
じわじわと蝕まれるのは苦痛だと、ただ落ちかかる日をみながら考えて
それを何べんかくりかえしたころには、もう何もよくわからなくなっている
そういうことだろうと思います。
宛名をつけようとしてもつけられない手紙を
今までったい、いくたびくらい書いたでしょう。
ぼやけた空。降ってくる星。ふりはらった手。
ただ触れないくらいのところからじっとじっとあごを上げて
いつでもみていたまなざしの先のほうに
どれくらいことばは積もったでしょう。
送るぼくにもわからないくらい、ことばはつもってそうしてあふれて
しかたなくかたちを結ばざるを得ず
この姿はいやだと、ふるふると身じろぎをして訴える。
ぼくのなかで揺れながらきみへのことばは
ひたすらに訴えつづける。
ただ、その場所へしずかに、もどってゆけば、よいことです。